私がメンヘラをやめた理由②
夜10時、それでも6月の終わりはジトジトと暑い。
マンションの前には広い駐車場があり、周りを囲うようにちょうど座れる高さのブロックが置いてある。隣にある踏切のカンカンという音を背中に受けながら、私はラインを開きました。着せ替えはピンクのファンシーなユニコーン柄。
30人ほどの「友だち」の中から、
最初に選んだのは中学の同級生で適応障害を持った女の子。志賀野さん。
通話を選ぶと彼女はすぐに出てくれました。
どうしたのー?そんな穏やかで優しい声を聞いた気がする。
私は聞いて欲しい、と前置きをした後今の生活について話しました。
仕事を休職した事、福岡に来ている事、そこでメンヘラ仲間と好き放題の生活をしている事、毎日瀉血して血を浴びている事。それもシャワーのように。
志賀野さんは相槌を打ちながら聞いてくれます。
私は、一呼吸しっかり置いて言いました。
「私、ここにいていいのかな。」
メンヘラ達は毎日血まみれです。意識だって飛ばしている。自傷したいわけじゃない、ただみんな現実なんて嫌になって「放棄」している。真面目に生きるなんてもう嫌だ!狂ってやる!私達は自由だ!もう、うんざりなんだ!全部、なにもかも!
志賀野さんは私の話が落ち着いた後、一言だけ言いました。
「帰っておいで。」
帰っておいで。
心配だよ。あなたには私達がいるじゃない。いつでも、これまでもずっと、私達がいたじゃない。なんだって話してきたじゃない。病気だって障害だって、困ったねって言いながらお喋りのタネにしてきたじゃない。
あなたのいるべきところはそこじゃないよ。
なにも厳しい事は言われなかった。ただ一言、帰っておいでと言われただけ。
私がその時なにを考えたかは、詳しく覚えてないけれどすごく安心したのを覚えている。私に帰る場所がある?両親ともうまくいかず、彼氏もいない、仕事もできない私に帰る場所があるって?そうなんだ、私、帰る場所があるんだ。
でも信じられない。私はもう一人通話をする事にした。
彼は私が原宿を歩いている時に声をかけてきた美容師だった。「髪を切らせて欲しい」とのことだったが、その後好きだと言われ、それ以来私のショートカットは必ず彼にお願いしていた。(お返事は常に保留にしていた、、、)
志賀野さんに伝えた事をまた報告する。私、ここにいていいのかな。
「俺に電話してくるって事は、もうわかってるんでしょ?」
彼、テッペイくんはそう言った。やっぱり。
私はここにいるべきじゃないんだ、好き放題血まみれになって騒いでどんどんめちゃくちゃになって意識さえぶっ飛ばしてただただ異常な生活に染まっていく。
これが私のなりたかった理想の大人か?これが?
その後しばらく考えた。
座りやすい高さのブロックに腰掛けて、
みんなが騒いでいるマンションの一室を眺めながら。
私はここにいてはいけないんだと。
帰らなくちゃ。私はここで、この生活を続けていてはいけない。
身体中に染み付いた血を洗い流して飲んだ薬を吐いて、もう慣れ合うだけのお喋りをやめて、ここから出よう。
私、帰ろう。
そう思って立ち上がった時、ちょうどiPhoneで聞いていたユニゾンスクエアガーデンが
歌い終わったところだった。
島田