苦手な先輩
私は今の会社に出向して3ヶ月。
ずっと設計をしていたとはいえ、その業務自体は幅広く、そもそもソフトを使わない職場もありました。っていうか、私社会人生活の半分以上メンタル壊してニートだし。
そんな私が今いる会社は、バリバリと特殊な設計ソフトを使います。
しかも、その中でもあまり使わない種類のコマンドを使います。
なんにもわからない。会社独自のルールもたくさんあり、毎日情報の海で溺れています。
OJTからの教育を終え、別の先輩からお仕事をもらうようになりました。
その先輩は大変有能で若くしてそれなりのポストにいる、頭の良い人です。
とても理性的、責任感があり、信頼も厚い。当然、仕事量も多い。
初めての部品、初めてのコマンド、会社独自のルール、加えて私の頭の悪さ。
私は常にアップアップで溺れながら浮き輪も放り投げてしまうようなパニック状態。
そんな私を教育し、仕事をさせなければならない先輩の心労は計り知れない、、、
前に教えたはずの事もすぐ忘れてしまう私に、チクリと言ってやりたくなる気持ちはとってもよくわかります。だってこいつ、何回教えても忘れるんだもん。俺にも仕事があるんだよ、お前につきっきりにいられるわけないだろう。いい加減にしろよ。これくらいできるだろう。
できないんです。
そもそも私に、その部品の知識はない。構成もわかっていない。部品名を聞いても、どんな形をしているのか、どんな役割があるのか、何のための図面を描いているのかもわからない。
私は自分の学習障害をカバーするために、写経レベルのメモを取っていました。
それは「記憶するためのメモ」ではなく、「認知するためのメモ」でした。
私は「文字で見れば理解できる」けれど、「聞いて理解する」事が出来ません。文字にしないとそもそも理解の前段階、「認知」さえ出来ないのです。
そんな異常なほどのメモを取る私に向かって先輩は言いました。
「島田さんは、メモを取ったって全然見ていないじゃないか。」
ハッとしました。ああ、ここに健常者と障害者の差が!
どうやら、健常者の「メモ」というものは「記憶するため」にするようだ。対して私のメモはどうか?「認知するため」のメモだ。要は、「何言ってるかを文字にして頭に入れる作業」、認識の相違。みんなは、記憶するためにメモを取るんだ。
私はすぐにそれを先輩に話しました。
1時間くらいお互いに話し合いをしたと思います。聞いてもわからない事、文字にして理解を助けている事、先輩にとってはわけのわからない話だったと思う。
それでも先輩は「わかった」と言って、やり方を変えてくれました。
私への指示はなるべく「書き込む事」
作業を指示した時点で、やる事の想像はできているのか?と「確認する事」
できるだけ作業を細かく区切り、「多くの情報を与えない事」
それでもやっぱり、言葉でコミュニケーションを取っている時点で認識の相違は出てきてしまいます。何度も書くけど、私は頭が悪い。先輩のいわんとしている事がわからない。
作業も完璧にはできない。
ここまでやっているのに、それでもまだこいつは覚えない。
先輩はとても疲れると思うし、作業量も増える。どうしたらいい。イライラする。
だから「前にも言った」「前にもやった」「いい加減覚えてください」、そう言わせてしまう。とても理性的であるはずの先輩に、そう言わせてしまう。
そういう時、私はもう「すみません」としか言えなくなる。
そしてそれもまた先輩をイライラさせてしまう。
それを感じ取って私の声もどんどん小さくなっていく。オドオドしてしまう。
悪循環。
要は私が先輩の要求レベルに応えればいい事なのに、現状私にはそれができない。
先輩からしたら低いハードル、私にとっては高いハードル。
そこで、私はメモをやめました。
とにかく先輩の話を聞く事、区切られた作業をできるだけ正確にこなす事。
あれだけこだわっていたメモを捨てて、とにかく食らいつく事にしました。
全て、「先輩の要求レベルに応えたい」からです。
先輩は私のためにいろいろと考えて動いてくれています。
たまにキツイかなという言葉ももらいます、でも先輩は私を育ててくれている。
それでもやっぱり怖い。本当は毎日しんどい。職場で泣き出してしまいたい時はたくさんある。でも、それをしたら先輩は今後私にアドバイスできなくなる。
だから私は少しでも仕事ができるように、あらゆる手を尽くして食らいついて絶対に仕事ができるようにならなければならないのです。
先輩は怖いけれど、悪い人じゃない。
どれだけムカついても声を荒げたりしない。覚えるべき事を、必死に覚えさせようとしてくれている。
先輩に信頼されたい。島田ならこの仕事をやってくれる、と思ってもらいたい。
だから私は明日も仕事に行く。
毎朝しんどい、行きたくないと思っても行く。
苦手だけれど、尊敬する先輩だからだ。
島田